大判例

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京都地方裁判所 平成元年(わ)954号 判決 1993年1月25日

本店の所在地

京都市中京区河原町二条下る一之船入町三六六番地

株式会社窪田

(右代表者代表取締役 窪田操)

本籍・住居

京都市伏見区醍醐中山町二五番地の一〇

会社役員

窪田操

昭和七年四月一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官柿原和則出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社窪田を罰金一億二〇〇〇万円に、被告人窪田操を懲役一年六月にそれぞれ処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社窪田(以下、「被告会社」という。)は、京都市伏見区桃山町西尾一五番地(現在は同市中京区河原町二条下る一之船入町三六六番地に変更)に本店を置き、不動産売買業等を営む資本金三〇〇〇万円(現在は九五〇〇万円に増資)の法人、被告人窪田操(以下、「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上する方法により、その所得の一部を秘匿した上、被告会社の昭和六一年七月一日から同六二年六月三〇日までの事業年度における実際所得金額が一二億六四五五万八七一四円、課税土地譲渡利益金額が一三億九五二四万三〇〇〇円(別紙1の修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同六二年八月三一日、同市伏見区鑓屋町無番地所在の所轄伏見税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億六四五五万八七一四円、課税土地譲渡利益金額が三億六九三〇万四〇〇〇円(ただし、申告書には、計算の誤りにより三億三九四二万一〇〇〇円と記載)で、これに対する法人税額が一億八一七七万一二〇〇円(ただし、申告書には、計算の誤りにより一億七八〇三万八五六〇円と記載)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書と提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額八億六九五万九〇〇〇円と右申告税額との差額六億二五一八万七八〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  収税官吏作成の被告人に対する質問てん末書七通

一  窪田孝治、上杉昌也の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の窪田孝治(五通)、清水久雄(二通)、浅田幸廣、窪田博(二通)及び藤原誠に対する各質問てん末書

一  中京税務署長作成の証明書

一  収税官吏作成の脱税額計算書

一  登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある領収書三通(平成元年押第二六〇号の1ないし3)

(弁護人らの主張に対する判断)

一  弁護人らは、本件課税土地譲渡利益金額に対する課税の根拠を定める租税特別措置法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)六三条一項一号の規定(以下、これを「土地重課規定」ともいう。)は、法人の土地投機の鎮静化、個人土地の放出による土地供給の促進等をその立法目的として、法人が昭和四四年一月一日以降に取得した土地等を譲渡した場合には、その利益に対し通常の法人税のほかに、利益に対する二〇パーセントの税率による税額を加算することを内容とするものであるが、右の規定によってはその立法目的が達成されないことが明らかであり、また、右の規定は立法目的との関連でも著しく不合理なものであるから、同規定は憲法一四条一項、二九条三項、二一条、二二条及び八四条に違反し無効であり、したがって、本件の事業年度当時の土地重課規定による税額二億七九〇四万八六〇〇円相当部分は脱税金額から除外されるべきものである旨主張する。

二  しかしながら、今日における租税は、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加えて、所得の再配分、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策的判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるにつき極めて専門的技術的な判断を必要とすることも明らかである。それゆえ、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的技術的な判断にゆだねるほかなく、裁判所としては、基本的には立法府の裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。したがって、租税法の分野における所得の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができない(最高裁判所昭和六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁参照)。そして、このことは租税特別措置法の土地重課規定についてもそのまま妥当するものと認められるから、右の趣旨から同規定の憲法適合性が検討されるべきである。

1  そこでまず、土地重課規定の立法目的について検討する。

同規定は、昭和四四年度の土地税制の改正を補完するものとして、昭和四八年度の同法律の改正により新設されたものである。先の昭和四四年度の土地税制の改正においては、土地の供給及びその有効利用を促進するために、個人の長期保有土地にかかる譲渡所得について分離課税措置がとられたが、これにより個人保有土地の放出は促進されたものの、右の放出された土地が必ずしもその有効利用には直結せず、とくに昭和四六年以降の金融緩和策の影響の下に、法人についての抑制措置が不十分であったこともあって、法人による土地の投機的買占め及び留保が行われ、結果的には地価の高騰に拍車をかけることとなった。そこで、これに対する規制措置を講じ、昭和四四年度の個人についての土地税制を補完する意味をも含めて、法人による土地投機の抑制を主たる目的としつつ、併せて土地の供給促進にも配慮するという考え方から、同法の改正により、新たに土地重課規定が創設されるに至った経緯が認められる(昭和四八年一月一八日に政府に提出された「今後の土地税制のあり方についての答申」と題する税制調査会の答申、東京高等裁判所昭和五五年六月一六日判決・訟務月報二五巻七号等参照)。このように同規定は、個人保有土地の放出による土地供給を促進するとともに、法人に対しては重い税金を課することによって土地譲渡による利益への期待を減少させ、ひいては、投機的な土地需要による地価の高騰という事態を鎮静化させることを目的としたものと認められるから、かかる立法目的が正当であることはいうまでもない。

弁護人らは、この点につき、土地重課規定は専ら法人の土地投機を抑制し、地価上昇を防止することを目的として制定されたものであって、財政上の必要によって創設されたものではないから、租税本来の目的を逸脱していて不当であるという。

しかしながら、先にも述べたとおり、今日における租税法規の立法は国民経済の成長安定、国家の財政、社会政策等のあらゆる要素を総合考慮してなされるべきものであるから、国政全般からの政策判断によって国民の租税負担を定めることも、これまた立法政策の問題に属し、したがって、例えば望ましい土地政策を推進するために租税制度を活用することも許されるというべきである。そして、土地重課制度は、前記のような経過で総合的な土地政策の一翼をになうものとして定立されるに至ったものであって、そのこと自体十分合理性を有しているものと認められるから、同規定に財政需要を充足する租税本来の目的以外の目的があるからといって、その立法目的が不当であるということはできない。

2  次に、土地重課規定の内容について検討する。

法人の土地投機の増加は、一つには金融緩和政策に原因があることは否定できないけれども、前記のとおり、土地の値上りを期待しこれを投機的に譲渡することによる期待利益の見込みが存在することにも大きな原因があることは明らかである。そうだとすると、このような土地の投機的譲渡による期待利益を減少させ、土地で儲けるうまみを小さくし、法人の土地投機的需要を減少させるために土地譲渡益に対して通常の法人税額に加えて更に税金をかけることは、前記の立法目的を達成する上でそれなりの理由のあるものと認められるから、これが立法目的との関連で著しく不合理であるなどとはとうていいえない。

これに対し、弁護人らは、土地重課規定は、所有期間一〇年以下の土地を譲渡すれば、その譲渡益に対して各事業年度の所得に対する法人税とは別に二〇パーセントの特別税率による法人税を課するというのであるから、土地を買った法人は同規定の適用を免れるため土地を一〇年以上所有しようと考えるのが当然で、かえって法人の土地売り惜しみを招いて土地供給が減少し、地価高騰を招くものであるし、また、本件の課税対象は、土地取得後一〇年以下の短期の土地譲渡益であるが、短期売買を規制しても土地価格高騰を抑制することはできないなどという。

確かに、土地重課規定は土地の譲渡益に課税するものであるから、逆に土地を売り控えるという動きが出てきて土地の供給が抑制されるという懸念も、当初から予想されていたところではある。しかし、この点については、立法の過程においても総合的な土地政策の見地から十分に議論され、その結果、宅地や住宅供給の促進の観点から望ましい土地の供給については右規定を適用しないこととして、そのような土地の流通に悪影響を及ぼさないように配慮し、同時に、右規定の欠点を補充する意味を含め地方税である特別土地保有税を創設するなどして、土地の供給促進にも配慮しているのであって、土地税制全体からみて、よりより方策として右規定が定立されたものと理解できるから、やはりその立法目的の合理性を否定することはできない。

また、短期売買を規制しても土地価格高騰を抑制することができないとの弁護人らの所論は、これを裏付ける的確な資料があるわけではないばかりか、土地重課規定において課税の対象に前記のような基準を設けたのは、従前のように昭和四四年一月一日以後の土地取引の譲渡益に課税をするというのでは、税制の緩和期待による法人の土地の売り惜しみを招くおそれがあったので、長期安定的な制度を確立する必要から、昭和五七年度の改正に当たっては、課税対象に安定的な基準を導入し、土地重課規定制定当時の情勢を考慮して、右のように土地の取得後一〇年を基準として課税対象を定め、法人による土地の投機的需要を抑制しようとした経過が認められるのであって、課税対象を土地取得後一〇年以内の取引に限定したことが著しく長期に失するものとはいえず、したがって、この点も不合理であるとは認められない。

さらに、弁護人らは、土地重課規定の立法目的を達成するには他に金融引き締めや高率かつ広範囲の土地保有税の導入などの有効な方策があること、同規定が実質上中小法人の資金調達を困難にし経営を危うくするものであること、土地譲渡益に高い担税力がないことなどをもるる挙げて、同規定が不合理なものであるというが、これらの所論は、結局のところ、立法府による国政全般からの総合的な政策判断に基づく施策を問題にするものであって、弁護人ら挙示の諸点を考慮にいれても、右規定が立法府の裁量的判断を逸脱したものであると認めることはできない。

3  以上検討してきたところをもとに、弁護人らの違憲主張を検討すると、土地重課規定は、社会通念上認容すべき限度をはるかに超えて不公平、不当なものとは認められないので、憲法一四条に違反するものではない(前記最高裁判所昭和六〇年三月二七日判決参照)し、一般的に受忍すべきものとされている制限の範囲を超えて、財産上特別の犠牲を法人に課したものとは認められないから、憲法二九条三項に違反するものでもない。また、同規定は、これにより法人の活動が事実上制約される結果となったとしても、これは合理的なものであるから、結社の自由や職業選択の自由を保障した憲法二一条、二二条に違反するものではなく、更には、課税要件が法律上明確に定められており、しかもその内容において合理性を有するものであるから、租税法律主義を定めた憲法八四条に違反するものでないことも明らかである。

したがって、弁護人らの憲法違反の主張はいずれも理由がない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処することとする。

さらに、被告人の判示所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により判示の罪につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同法一五九条二項を適用し、その金額の範囲内で被告会社を罰金一億二〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は一事業年度の法人税六億円余りをほ脱した事案であるが、その動機は、単に当該年度の税額が予想外の多額にのぼることに驚いて脱税に及んだというものであって、格別同情の余地がないばかりか、ほ脱額も右のとおり極めて高額であり、また、ほ脱率も七一・九パーセントと決して低いものとはいえない。さらに、ほ脱の方法をみても、知人に依頼して、被告会社が当期に同人の経営する会社に支払うべき土地の仕入れや立退き売却に関する手数料等として一〇億円を支払ったように仮装し、同人から日付を空欄にした領収書を発行してもらい、同額を仕入勘定に仮装計上することによって当期利益金を圧縮したというものであり、しかも、右に関しては、わざわざ領収書発行名義人の取引銀行に同人名義の口座を開設して、同口座に一〇億円を振り込み、その振り込んだ日と整合するように日付欄を埋め合わせて領収書を完成させ、あたかも当期に支払うべき一〇億円を後日に同人に支払ったかのごとく仮装して、事後の税務署の調査にも耐えられるよう犯行の隠ぺい工作もしているのであって、犯行態様は大胆にして巧妙なものであり、犯情悪質といわなければならない。そして、被告人のこのような行為が国民の納税に対する不信を助長するなど、その行為の及ぼす影響には多大なものがあったと認められる。加えて、仮装の領収書発行名義人の銀行口座に振り込んだ右一〇億円は、送金直後全額引き出した上、そのうちの一億五〇〇〇万円を暴力団会津小鉄系篠原組関係者に貸し付けるなど、被告人らには法秩序において是認されない暴力団関係者との関わりがうかがわれるほか、これまで宅地建物取引業法違反等の罪により罰金刑に処せられた前科もあるなど、被告会社においては、必ずしも健全な企業経営がなされていたとはいい難い面が認められる。

以上の事情に照らせば、被告人らの刑事責任は相当に重いものがあるから、他方において、本件犯行が事前に脱税のため期中における継続的な会計帳簿の操作を企てたものではなく、納税に当たって急きょ架空の領収書を仕立てることを思い付いたものであること、捜査、公判を通じて被告人が事実を認め、反省の態度を示していること、本件発覚後は修正申告をして、重加算税及び延滞税を含め全額納付していること、被告人には罰金刑のほか前科がなく、また同種前科もないこと、更には、被告人が関連企業を含めて約五〇〇人の従業員がいる企業の経営者の立場にあることなど、被告人らに有利な事情のあることを十分考慮にいれても、本件はとうてい刑の執行猶予を相当とする事案ではなく、この際被告人らに対してそれぞれ主文の刑をもって臨むのはやむを得ない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白井万久 裁判官 松尾昭一 裁判官 遠藤俊郎)

別紙1

修正損益計算書

自 昭和61年7月1日

至 昭和62年6月30日

<省略>

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙2 税額計算書

自 昭和61年7月1日

至 昭和62年6月30日

<省略>

税額計算書

<省略>

軽減税率適用所得金額又は受取配当等の益金算入額の計算(措法42の2、42の3、旧措法42、42の2)

<省略>

法人税額の計算

<省略>

短期所有土地等の譲渡等に係る譲渡利益金額に対する税額等の計算

<省略>

〔犯則額の物件別明細〕(付表1) 犯則額の計算

<省略>

〔犯則額の物件別明細-収益及び原価〕(付表2) 犯則額の計算

<省略>

〔犯則額の物件別明細-法定の負債利子〕(付表3) 犯則額の計算

<省略>

〔犯則額の物件別明細-販売費〕(付表4) 犯則額の計算

<省略>

〔犯則額の物件別明細-一般管理費〕(付表5) 犯則額の計算

<省略>

正当税額の計算書

<省略>

短期所有土地等の譲渡等に係る譲渡利益金額に対する税額等の計算

<省略>

〔計算誤びゅう額の物件別明細〕(付表1) 計算誤びゅう額の計算

<省略>

〔計算誤びゅう額の物件別明細-法定の負債利子〕(付表3) 計算誤びゅう額の計算

<省略>

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